2022.11
「上」新店舗コンサルティング
大阪の岸和田と新町に店舗を持つ「餅匠しづく」の3店舗目となる芦屋店の空間構成・店名・デザインのコンサルティングを行いました。
「お菓子で百薬の長を目指す」をコンセプトに、自然の素材を大切にしてお餅を作られている哲学を表現するため、原始の建築工法である版築に着目。
砂糖や塩、餅粉などの粒が掌の中で形となってお菓子ができるように、自然の粒子ー土を突き固めて机とし、これから作られる様々なお菓子が並べられる大地となり、みんなで1つの机を囲む場を中心に空間を構成しました。
版築は13トンの土を使った高さの異なる16層で構成されており、機械を用いて土を突き固めていく方法では過剰に圧力がかかってしまうため、昔の人々と同じように全て職人たちの人力で、棒で突いたり、足で踏んだり、毎日1~2層ずつ丁寧に作られました。
新しく建てられた3階建のテナントビルの1階部分の改修で、机は4.65×2.8m、高さ90cm。床は同じ土を使った三和土仕上げ、壁と天井は漆喰仕上げにすることで、全て土を使った自然の空間の中でお菓子が並べられます。
私たちの祖先は、地球の大地と素肌で直接触れながら生きてきました。大地がそのまま立ち上がったような机に触れながらお菓子と出会う体験を提供することで、アーシングのように身体の電気を地面に逃し、お店を出る時には入った時よりも体が軽くなり、空間自体も百薬の一部となることを目指しました。
既存の2店舗とは違うアート空間にしたいという要望から、「上(しょう)」という空間の名前を提案しました。「上」という漢字の語源は、横線が掌を表しており、手のひらが上に向いている状態です。天から降りるしづく(雫)は、前へでも後ろへでもなく地上で水たまりをつくり、上を目指し、やがて希望となり、雫となる。餅匠しづくの思考のショーケースとなる店舗となることを願い、字体は紀元前、秦の始皇帝が万里の長城を築く際に版築の技法を用いた少し後に中国で用いられていた文字のフォルムを、現代的に置き換え、サイン、新しく作る梱包材のデザインを田中義久さんにお願いしました。
壁を掘り込むサインや、土を混ぜ込んだ紙を包装に使うなど、空間が更に引き立つ統一感により、足元の土から得る栄養が心身を養い、上を向いて生きていくエネルギーとなる、石田さんが作られるお饅頭に込められた願いが食す方にお菓子と空間から伝わることを考えたプロジェクトです。
(橋詰隼弥)
施主:餅匠しづく
空間・アートコンサルティング:WATER AND ART
施工:西口建装
左官:中須左官店
唐紙:かみ添
表具:藤田雅装堂
サイン・梱包材デザイン:田中義久(Centre)
サイン施工:Atelier Tuareg 監修:アトリエ九間
協力:dot architects、林寿美
延床面積:57.68㎡
主体構造:RC造
住所:〒659-0067 兵庫県芦屋市茶屋之町10-9
営業時間:11:00〜18:00 火曜日定休
写真:森川昇